the clumsy, the stranger and… 02

千代子が大男を拾っていたちょうどその頃​。

​……フォスとシンシャは​カマクラでエンジョイしていた。

 

「このカマクラの内装は2人に任せるね」

その言葉通り、やりたい放題の限りを尽くすとフォスは心に誓った。壮大すぎるね。対してシンシャはフォスのやりたいことを全力でサポートすることに決めていたが、口からまろびでた言葉は「三半、あまり突飛なことを考えるんじゃないぞ」というツンデレ具合。かわいいね。

とはいえ、いつもフォスやシンシャのためにいろいろなことをしてくれる千代子に対する「チヨコのためになることをしたい」という思いは2人とも同じだった。

でも、何ができるだろう。
フォスは困った。ウンウン唸った。
師匠が帰ってきたとき、喜んでくれそうなカマクラ……?

「……師匠がいない間に師匠が好きそうな内装を用意できたら、帰ってきたときにびっくりして喜んでくれるかなあ?」
「チヨコは極論、……その……俺たちが生きてるだけで喜ぶんだから、そんなことされたら飛び跳ねて喜ぶだろう」
「あらっ、シンシャったら」
「なんだよ」
「んーん、なんでもない」
「言いたいことがあるならはっきり言え三半」
「えー? 言ったら怒りそう」
「怒らないから早く言え」
「ほんとぉ? ……えーと、君には愛されてる自覚がちゃんとあるんだなあって」
「普段からあんなに大事にされてるんだから当たり前だろ」
「ひゅー! ちなみに僕も愛してるよ!」
「ッ?!!!!」
「シンシャが、師匠が大好きなんだよ!」
「……ッ」

シンシャはフォスの火の玉ストレート発言に赤面した。
さもありなん。

あまりのド直球さに言葉もなかった。
ただ嬉しそうにペカーッと笑っているフォスを睨むしかできなかったが、フォスは意に介さなかった。シンシャ検定1級のウデマエで照れてるって分かっていたので。

なんやかんやあったが結論から言うと、フォスはシンシャと一致団結した。大体いつもしてるけど。シンシャはあからさまにそんなの態度に出していないつもりでいるけれど、『誰かと一緒に』何かを成すことに喜びを見いだしているのが雰囲気で丸わかりである。かわいいね。

 

「外は雪、雪は寒い、寒いから暖かく(したい)」

内装を決めるべくして行われた連想ゲームの末、2人が思いついた共通事項。

フォスもシンシャもこの程度の寒さには耐性があるから特にどうということもないが、千代子は違う。ある程度自前の装備でどうにかできるとしても、(“丘”で出会った当初から)彼女はフォスやシンシャより寒がりで暑がりだった。今回このミニオン島に到着したときも「わわ、寒ーい!」と震えながら言っていたくらいだ。

話しているうちに、シンシャは以前千代子が「わたしの故郷には『コタツ』っていう机に布団を被せたような形の暖房器具があってね、あれ好きなんだよねえ」と言っていたのを思い出した。「それだ!!!!」とフォス。

想像と現状から誂られる産物のため彼女が言っていたのとまるきり一緒とは言えないだろうが、フォスもシンシャも「あーでもないこーでもない」とアイディアを出しながらカマクラの中にミリしらコタツを爆誕させようと決めたのだ。

「袋の中にある材料から作れるといいね」
「作れるといいんじゃなくて、作るんだろ」
「そうだった! えーと、袋の中身は……と、」

千代子から「好きに使っていいよ」ともらった(袋の中身が質量保存の法則を丸無視しているうえにとても軽い)魔法の道具袋を漁っていると、使えそうな材料がいくつもあった。ものによってはフォスたちの硬度を超えるような素材もあったが、2人は怯まない。自分の身体を強化できるからだ。

布団の代わりに毛布。しかし机が無かったので今回はこれを作ることに決まった。2人で協力して天板と机の脚をトンテンカンテン。フォスは不器用なので戦力としてはちょっと頼りなかったけれど、シンシャに言われた素材を手早く手渡すことと飾り付けで貢献した。

(よし、あとは仕上げをがんばるぞい!)とフォスが気合いを入れた瞬間、カマクラの入り口すぐ目の前を1人の子どもが横切った。音もなく、ただ号泣しながら・ふらつきながらも真っ直ぐ歩もうとしている。髪は短いのか帽子に入れこまれて見えないけれど恐らく黒髪。服にほとんど隠されているが、露出している肌にところどころ白く斑点がある。

それになんだかボロボロで、なによりすごく悲しそうで寂しそうで。

思わずフォスが「……ねえ、君!」と声をかけた瞬間、子どもはバッとフォスたちに向かって身体ごと振り向いて、ビックリしたような顔で固まった。今の今までそこにひとが居たことに気が付かなかったようなリアクション。何か言いたげで、でも躊躇いもあって、口がはくはくと開いては閉じる。

もう一度フォスが声を掛けて「こっちおいでよ」と言おうとしたタイミングで、子どもは目をギュッと瞑って方向転換。その場から走り去ってしまった。

「なんだったんだろう……」
「さぁな。だがあの表情、何かに怯えていたように見えた」
「僕たちそんなに怖かったかな……」
「……」
「こんなに美形なのに……?」
「それは事実だが先程の件とは全く関係ないだろ」

三半のバカ。シンシャが軽くフォスの頭を小突いた。
えへへ、フォスが笑った。

2人ともさっきの子どものことを心配に思ったのは本当だ。
けれど、「カマクラの内装を任せる代わりにカマクラの外へは出ない」という千代子との約束は破れない。それにシンシャの「目に見えることだけが真実じゃない(=足音や呼吸音すらしなかったし、あれが本当ににんげんの子どもかは分からない)」という一言もあって黙々とコタツを仕上げることを優先した。フォスは「なにそれカッコイイ」と目をキラキラさせていた。

ちなみにコタツはしっかり完成した。

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