the clumsy, the stranger and… 01

千代子とフォスとシンシャはいま、宝石たちの住まう島​───────すなわち“丘”へ一時帰宅している。外界調査に関しての定期報告を行うためだ(今回分はもう報告済)。

なお、今までの航路がパァにならないように千代子がとっておきの策を講じているので問題“は”ない​。再出発するときは、(ちょっと特殊な手段を用いるが)前回到達した最終地点からまた調査することができる。

それよりも、いま問題なのは……。

「……」「わあ! 先生よりも大っきい!」「僕たち2人分が縦に並んでもまだ大っきいよ!」「イエローお兄様とはちょっと違うけど髪が黄色だ!」「ふわふわしてる髪! チヨコの髪とはまた違うね」「チヨコのはサラサラだもんね」「目のとこ、黒い丸が2つ付いてるその飾りはなあに?」「ファッションってやつ?」「足長ーい!」「僕たちが簡単に潜れちゃうね」「口元がいっぱい赤いね、なんで?」「お化粧ってやつかなあ」「そのふわふわした黒はファッション?!!!」「うわベリルが覚醒した」「ベリルがファッション狂なのは通常運転でしょ」「そうだったや」

宝石たちにワラワラと群がられている、この大男である。
身長3m弱。ハート柄の奇抜なシャツに白い長ズボン、そしてその背丈に見合った巨大な黒いファーコートを身に付けている金髪の男。

千代子以外の人間に興味津々な宝石たちの勢いに押されて黙りこくっている。その様子に過去の自分を想起させられたのもあって千代子は笑みを零した。

 

この男との出会いは、数日前に遡る。

羅針盤が示すまま船を進めていたところ、とある島に到着した。ミニオン島とかいう、雪が降り積もる小さな島だ。

ふわふわの雪が降るのを面白がったフォスとシンシャ引き連れて千代子がヨッコラショと上陸した。雪で戯れつつ小一時間も散策していると、ほど近い場所でなんだか騒がしい音がした。どこかの連中がドンパチやってるのだろうか? すぐ船内に戻ることも考えたが、現在位置から船は微妙な距離にある。

千代子はとにかく2人を危ないことに巻き込むわけにはいかないと思って、急遽カマクラを作ることを提案した。
これがカマクラづくりRTAのはじまりである。

秘密基地だよと言えばフォスは必ずノってくる確信があったし、シンシャも(ちょっとは文句を言うかもしれないけれど)フォスに追随する確信もあった。そして作ったカマクラに魔術という名の(ちょっとした)細工をすれば、もし敵が現れても身を守りつつ時間稼ぎする手立てを千代子が持ち合わせていたが故の提案だった。

慎重な性格のシンシャには「またチヨコがヘンテコな提案してる」という顔をされたけど。それでもシンシャには「チヨコが変な提案をしても、それは大体何かしらの意味がある」という積み重なった信頼があったので何も言わず手伝ってくれた。シンシャすごくやさしい。

「あとで写真ってのを撮って、みんなにも見せてあげようよ!」
「構わないが手を動かせ三半、止まってるぞ」
「カメラならもう用意できてるから安心してねフォス」
「やったー!」

何だかんだ千代子が作成を急いだので、数分後には(!)3人寝そべっても問題ないくらいのカマクラ(細工済、渾身の出来!)が出来上がった。ペースがめちゃくちゃ速い。カマクラ数分メイキング、さすがRTAを提案するだけある。

「もー! ほとんど師匠が作っちゃったじゃん!」
「ごめんね、思わず楽しくて手が動きすぎちゃった」
「実はチヨコもカマクラ楽しみにしてたんだな」
「……雪遊びで有名なやつだし、秘密基地っぽいからね!」

作りたてで中は空洞のままだったので、フォスとシンシャにカマクラから極力離れないことと周囲を警戒することを条件に内装を任せる(快諾してくれた)。一方、千代子は島の周辺を先に確認してくることにした。役割分担だ。

「では行ってきます隊長!」
「うむ、気をつけて行ってらっしゃい!」
「ちゃんと帰ってこい」

かわいさのあまり千代子はフォスたちに手を振りすぎて、シンシャに「早く行け」とちょっと叱られた。すみません真面目にやります。

 

「……、」

そうして千代子が島をグルリと回って偵察の折訪れた廃墟の近く、雪の上でケチャップまみれ(極力ぼかした表現)で虫の息になっていたピエロメイクの男を見つけた。降雪を遮るものがひとつもないから、どんどん雪に埋もれていく。

(もしや先ほどのドンパチ音の原因の1人なのかな)

恐らくその推測は当たっていた。事情が何もない人間は、こんなところで身体中人為的な穴だらけの血みどろにはならない。

風前の灯火に等しい、もうすぐ死を待つばかりのその命。言葉もないのに、表情が動いたわけでもないのに、まだ死ぬわけにはいかないとその魂が懸命に光を放つのを千代子は見た。

錯覚か?
……いいや、本当に見えてしまうのだ。
見えてしまったのだ。

まだ生きていなければ、と。
今にも燃え尽きそうなのに。
生きてまもらなければいけないものがある。
それだけのために、意地だけで、執念だけで必死にこの世に齧り付いているいのち。
自分のためではなく、誰かのために。

(……そういうの、弱いんだよなあ)

千代子は事情も知らない大男を拾うことにした。

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