毒を吐き出すことは恥で、その毒はいつも皆を害した。
見られたくなくて、傷つけたくもなくて、ならばと距離を置くことを選んだ。
だから俺は、夜をひとり彷徨うのだ。
それが唯一の正解で、今までもそしてこれからも変わらぬ在り方となるはずだった。
それなのに、気付けばお前が隣にいた。
はじめこそ拒絶していたが、諦める予兆もない。それどころか、毒に触れてなお「ほら、全然大丈夫だよ」と笑って無遠慮に俺の傍に居座る。しかも浮かべる笑みがあまりに気の抜けるものだったから、ついに折れたのはこちらのほうで。
あまつさえその大きな体躯で、温もりで、真摯な態度で俺を包み込んでくるとなるともう何も言えなかった。
いつからか、夜の孤独は霧散していたのだ。
「ありがとうシンシャ、夜もひとりぼっちじゃないって気づかせてくれて」
……違う!
その言葉は俺からお前にこそ言うべきものだ。
ひとり夜にとじこもることしか知らなかった俺から、隣り合う温もりを教えてくれたお前にこそ伝えるべき言葉なのに───────、
「シンシャ、大好きだよ」
……どうしてそうお前は!
お前のまっすぐな言葉が矢継ぎ早に俺の中心を射抜いてやまないから、俺の裡から生まれいずるはずの言葉が形になる前にまろびでてしまう。
きっとこいつには俺がなにやら呻いているようにしか聞こえていないに違いない。
くそ、いつもそうやってにこにこ笑っていやがって。
───────だが(本音を言うなら)、嫌い……ではない。
俺がお前を嫌うはずなどない。
常時ヘラヘラと笑っているところなんかは気に食わないが、お前が俺にしたことで俺を傷つけることなどこれまでひとつもなかった。(種族の違いによる別離さえ勘定に入れなければ)きっとこれからもお前は俺を裏切ることすらしないだろう。その程度、今までのやり取りから類推することなど容易いことだ。
チヨコ。
いつしか夜明けより前から傍にいた、夜空みたいな髪の女。
朝焼けみたいな目をして「瞳が赤いの、きみと一緒だ」なんて宣って、人懐こく近寄ってくる女。
その突拍子のなさと勢いに呑まれてつい隣を許したけれど案外嫌いではないと思っている。
お前さえいれば、もう夜の寂寞に怯える心などない。
孤独の夜を打ち砕いてくれたのはお前だ。
いつか本当の朝を連れてくるのも。
そのときは、
「……俺も」
すきだ、と言ってやってもいい。
コメント