夜、誰も彼もが寝静まった頃。
誰も起こさないよう慎重に“学校”から抜け出す。
宵闇の中でも深く心の底へ溶け込んでくるような赤い色彩を持つ彼のもとへ向かうのが、気づけば習慣となっていた。
「シンシャ、こんばんは。また来ちゃった」
「……ほんとうに物好きなやつだなお前は」
深い赤がわたしを認めて立ち止まる。
賢くて、寂しがり屋で、けれど皆と距離を取り続ける彼。
光源少ない夜中でもこうして僅かな月明かりを集めて活動できるだけの才能がある。他の宝石たちには真似出来ない芸当だ(そもそも皆、夜は光が少なくて眠いからってすぐお布団に潜り込んじゃうからだけど)。
何より、わたしがシンシャの傍へ辿り着くまで待っていてくれる優しさがある。
「今日も一緒に見回りしていい?」
「好きにしろ……どうせ何言おうが着いてくるんだろ」
「へへ、その通りです」
「いちいち聞くな」
「だってシンシャとちょっとでも話したかったんだもん」
「馬鹿なこと言ってないで行くぞ」
「はぁい」
歩調だって、わたしに合わせてくれている。
……言葉はちょっとツンデレさんっぽいところがあるけれど、突き放すようなニュアンスは一切含まれていないし。
それに、ほら。
「……」
無言で手を繋いでくれる。
以前わたしが「迷子体質なんだよね〜」とポロッと口にしたのを律儀に覚えてくれていたらしい。指摘したところで「別にお前のためじゃない……その、俺の気が散るからだ」とかなんとか言うんだろうな。ポコポコと怒る彼もきっと可愛いのだろうけど、わざと怒らせるのは趣味じゃないので突っつかないでおこう。
繋がれた手にはおおよそ人間らしい温もりはないけれど(それはそうだ、彼らは宝石だもの)、彼の感情が伝わってくるようでじんわりと温かく思えた。
だから、この一瞬を、こう思ったことを、彼を。
大事にしたいと思えた。
「ふふ……」
「どうした」
「ううん、シンシャと一緒にいると楽しいなあ、うれしいなぁって思っただけ」
いつかの眠れなかった夜に、わたしと出会ってくれたこと。
「何気なく同じ時間を過ごしてくれることは、わたしにとって何よりも代えがたい幸いなんだよ」
こうして静かに、わたしとただ夜を共に渡ってくれること。
「……」
「ありがとうシンシャ、夜もひとりぼっちじゃないって気づかせてくれて」
わたしはあなたが大好きだ。
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