死神を背負って君と歩く 幕間:01

とある女の独白

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まさかこうして再び明るい世界へと戻れるかもしれない日がくるとは思っていなかった。あのとき、あの女──チヨコの策に乗ったのだって、きっとわたしだけでなくみんなも、もう半分ヤケになったからだ。

あそこにいた誰だって、好きであんな地下牢にいたんじゃない。けれどでっちあげの罪で捕らえられて、はたまたありもしない言いがかりで連れさらわれて、長いこと解放されずにいればだんだんと気力だって薄れていく。

それでも、「あのミレーユという少女だけはここにいちゃならない、あの子はこんなところで終わっていいわけがない! あの瞳の輝きは、ここで潰えてはいけない」とどこぞの爺さまが言うから、「それはもっともだ」と動いた。あのときだって本当はわたしも、他のみんなも、「自分はきっとここからもう出られず助からないだろうから、せめてまだこの中で一番未来が望めるだろう子どものあの子をどうにか逃してやろう」と半ば諦めの中、そっと希望を込めたのだった。

(──それが、今はどうだ)

長らく牢へと繋がれていた“わたしたち”は地下牢から抜け出し、ついに王城内部へと侵入した。意図せず近くを歩いていたメイドは、よほど驚いたのかやや腰を抜かしつつ逃げようとしている。一方、兵士たちは援軍要請を受けてか続々と剣を構えこちらに向かってくる。それを先陣きって、片腕に子どもを抱えたひとりの女が難なくさばいていく。「自分が基本全部相手する(が、たまに何人か通してしまうやもしれない、とも言っていた)」との先の宣言通り、率先して立ち回ってくれているのだ。

(何人か通してしまうかも、などと言っておいて、ひとりもまだこちらに流されてこないじゃないの)

思わず苦笑した。

とんでもない女だ。自信なさそうな台詞を吐いたくせに、口調も態度も雰囲気もなにもかも「わたしを信じろ」と言わんばかり。特にいま、“わたしたち”の前にあるその背中が、一番それを雄弁に語っている。

普通ならあの「何人か通してしまうやも」という一言だけで、自信のなさを感じ水を差されたように感じて、「なにをそんな戯言を」で終わらせてしまうだろう。こういうのは首尾一貫して頼もしい態度でいてくれた方が精神的にどれだけありがたいか。そもそも、地下牢で長いことあんなに具合悪そうにしていた女が「向かってくる敵は全部わたしが倒します」などと言ったところで信憑性もあるまい。

 

(──けれどあのひとの今までの様子を見ても、あの頼りなさげな台詞があっても尚、信じてみようと思うのはなぜなんだろう。)

 

 

それはきっと、彼女が先導はしても、頑なに上に立とうとしないからかもしれない。

さも偉そうに君臨する腐敗ではなく、微笑んで隣に在ろうとする『ひと』だからかもしれない。

 

 

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