結論から言うと、わたしが急に名前を呼んでしまったせいか、さながら手負いの獣のように警戒された。ワタシ、キミニ、イヂワル、シナイ! わたしはちょっと(かなり)ヘコんだが、
『コネコチヤンに威嚇されたんだなあ』
と思い込むことでなんとかやり過ごした。お、おもいこみのちからは、すごいんだからな……(震え声)!
こわくなーい、こわくない、ちちちちち(イメージ)。
「……っ、お前……どこでその名を……っ!」
「(いや心配になるほどチョロ……んん、素直か、かわいいが?)ミレちゃんから聞きました」
「──……ミレーユ、ねえさんから……?!」
「うん。テリーくんのことすごく心配してたよ、『あの子のことだから、きっと助けるために何をしてでも来てしまうだろう』って──、……本当にそうなっちゃったみたいだね」
なるほど、ミレなんとかちゃんはミレーユという名前! きれいなお名前! はー、やっとスッキリしたわ。
互いの情報をすり合わせているうちにショタは本当に「テリーくん」とやらだったと判明したし、対わたしへの態度は数mm、数cmくらい軟化した。イメージとしては、警戒してミルクさえ受け付けなかったコネコチヤンが、自分から距離の離れたひと目のつかないところでならごはんを食べてくれるようになった、とかそういうレベル。餌付けは現時点でしていないけど。そもそもここ牢屋だからね、料理できないね。キッチンもなければ材料も道具もない。ないない尽くし。
「──さっきも言ったけど、幸運といえば幸運だけど不運といえば不運。タイミングの悪いことに、もうここにはきみのお姉さんはいないんだ。ここからうまいこと脱出してくれたからね。少なくともこの国からは抜け出せたんじゃないかな?」
「……」
「もしまた捕まってたら、彼女はここにまた逆戻りしていただろうし、そうなればここはもっと騒がしくなっていた。でも最近はなんの音沙汰もなかったからね、きっと大丈夫」
となれば、と続ける。
「わたしたちもここからそろそろ出なくちゃね」
「わたし『たち』……?」
怪訝そうな顔でテリーくんが復唱した。わたしは頷いて応える。わたし、こんなところにショタを置いていくつもりはないよ。わたしの精神衛生上よろしくないし、そもそもミレちゃんとお約束申し上げたものね。
「いつまでも牢獄におとなしく居住しているわけにもいかないでしょ。投獄されるために生きてるわけじゃないし、ほかに目的があるんだから。それにこんなとこ、頼まれても住みたくなんかないよ。不衛生で健康的なんてお世辞にも言えないし、ごはんはおいしくないし、まともなベッドもないし、全体的に不親切」
とっととここからおさらばして、美味しいごはんとほかほかお風呂、それからふかふかお布団いただきたいところ。おいしいおやつもあるとなお最高。
テリーくんもそうでしょ、と聞くと、(そんなの当たり前だろ)という顔をされた。そりゃそうだよねえ。
わたしがそう思って、テリーくんもそう思うなら、みんなそう思うだろうよねえ。
じゃあ、そろそろここ、お暇しようね。
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