「金策」
「そうだよ」
「キンサク……」
わたしを利用して金策とは一体どういうことなの、と頭をグルグルしていると、次のように説明があった。
曰く。
わたしが触れたり、わたしが発したものは彼らが言うところの「呪力」を受けて「呪物」とやらになるらしい。最初からぶっ飛んだ説明ありがとう。
ただ不思議なことにわたしから生産されたであろう「呪物」は、呪いを撒き散らすというよりかは、「持っている人間に幸運を引き寄せる」傾向があるそうな。
つまり、あの拉致された先で作っていた組紐やら帽子やらアクリルたわしやら、ポーチやらは……。
「ええーーっ、つまりわたしが直接関わったものが不思議なことにラッキーアイテム()に変化してたからそれを利用して宗教勧誘ついでにお金稼ぎもしていたですってーー(棒読み)」
「本当に驚いているのか?」
「……驚いてますよ、驚きすぎて反応がうまくできないんです、レスポンスしただけでもえらいと言ってほしいです……」
とにかく、わたしが作りだしたその「呪物」を教団は毎日集めては、信者に売り付けたり、新たなる信者を勧誘するための餌にしていたそうだ。なんて奴らだ。勝手に他人を商売道具よろしくこき使うんじゃないよ。
【なんという】テキトーに述べた「内職で金策」がだいたい合ってた件について【ことでしょう】
スレッドとか2ちゃんねるとかやったことないんだけど、そんなタイトルつきそう。勝手にやってろ。
いやまずスレを立てるな。
(わたしそんな、ラッキーアイテム()なんてつくってたかな…、つく……、つ……)
……つ、つくってたかもしれない……。
――まだ幼稚園に通っていた頃、祖父が倒れてお見舞いに行ったことがある。母に「じぃじになにか持っていってあげましょ、なにがいいかな、千代子なに持っていきたい?」と尋ねられ、幼いわたしは即、描いた絵をプレゼントすると決めた。そしてそれを持っていくと大層喜ばれて、数日して祖父は退院した。
あとで聞いた話によると、あのとき祖父は完治が難しい病気にかかっていたのだという。ほぼ回復する見込みもなく、配偶者たる祖母も「このまま片割れを失うのでは」と不安と悲しみのあまり寝込みかけたそうだ。
そんなとき、原因は不明だが急に祖父が快復へと向かった。比例して祖母も元気になった。よくはわからないが治ってよかったと、親族そろってよろこんだという。わたしも祖父母が元気そうにしているのを見て、よかったよかった、とにこにこしていた。
――小中学校のときも、友だちの誕生日に手作りのなにかしらをプレゼントしたことがあった。ぬいぐるみ、あみぐるみ、ストラップ、ポーチ、お守り、刺し子……数えるとキリがないのでその程度にしておくが、まぁ当時、手芸が趣味だった。今でもそう。
わたしの周りは、なんというかやたら「ちょっとした不運」に見舞われやすい友人がちらほらいた。
たとえば忘れ物のチェックを行事の前日したのになぜか翌日になるとひとつは忘れ物をしている子や、テストの日にペンケースまるごと忘れてしまう子、いつも元気で風邪も引かないのにテスト直前になると途端に体調が悪くなる子、階段で踏み外しそうになったり何もないところで転けそうになる子……その他諸々。
列挙しただけでは単なる「うっかりさん」や「鈍臭い子」たちのように聞こえるが、あの子たちは普段はそういった素振りを見せない。むしろしっかり者だったり、勉強が得意だったり、運動神経抜群だったりと一芸に秀でた子ばかりだ。
(人生においてこんな局所的に運が悪くなるなんてある???? 元気出しなよ!)なんて思いながら彼、彼女らに「誕生日プレゼントだよ」と、それっぽい名目つけて手芸作品をことごとく送りつけた。
結果、みな「ちょっとした不運」からは遠ざかったらしい。わたしはそれを聞いて、よかったよかった、とにこにこしていた。
――そういえば、中学時代で思い出した。
同級生の友人ひとりが急に入院したと思ったらなかなか退院してこないものだから、それじゃあプリザーブドフラワーで花束でもつくってお見舞いに行ってみるかとこっちも急に思いたった。生花お断りされる病院だってあるから丁度いいだろうと思ったし、プリザーブドフラワーで工作してみたかったというのもある。
早くに学校が終わったのをいいことにいそいそと材料を用意し、その日のうちにできあがったのでこれまたいそいそと病室のあの子に渡した。
やぁ、と挨拶するとあの子も「やぁ」と言った。教室で会っていた頃より少し痩けたような、つかれたような、すこし影のある趣で、でもわたしの顔をみてにこ、と微笑んだ。
「はやくよくなるといいね」
「うん……ありがとう」
それから数日して、友人は学校に復帰した。病室で見たあの雰囲気とは打って変わって、溌剌と輝かんばかりだった。
「あ、ねぇ千代子、あの花、ありがとう!」
「どういたしまして、よろこんでくれてなによりだよ」
「なんだかあの花に元気を貰った気がするんだよなあ……!」
「またまたー、そんなこといっちゃってさあ、」
あのとき、わたしはなんて返しただろう。ただ、あのときもわたしは、よかったよかった、と笑っていた気がするのだ。
(もしかして、もしかするのか? わたしは……?!)
「――というわけだ。お前を野放しにしておく訳にもいかないから、今日から高専預かりになる」
「はい? ……あっ、すみません聞いてませんでした、もう一度聞いても?」
「……真理江 千代子、」
「はいごめんなさい」
「お前は今日から高専預かりだ」
「えっっっ」
このままおうちに帰れないんです?
愛しの我が家に、帰れないんです?
そんなあ…………、あんまりですよう。
「あの」
「なんだ」
ああでも、さっき呪力がどうとか呪物がなんちゃらとかの説明のとき、彼らが「呪術師」であることやそのあたりの事情も説明されたな。呪術師は数が少なくて、いつも人不足だって、それなのにひとを救うべく日夜戦い続けているって。
例えばわたしがこれからも普段の生活をおくったとしよう。今回みたいに拉致されたり、急に襲われて家族もろとも害される可能性がないわけがない。そんなリスクを背負ったままの生活をすることになるだろう。
今回こそわたしが拉致されるだけで済んだが、次はどうなるか分からない。
それに今回拉致されたのは、わたしのことを嗅ぎつけたやつらがいるってことだ。わたしを利用しようと考えるやつがいるってことだ。そしてそいつらは、「呪術師」と敵対している「呪詛師」であることがほとんどだというのも聞いた。
つまり、その「呪詛師」に利用されたなら、彼らの仕事の邪魔になるということだ。
(わたしの都合だけで、家族を巻き込んでしまうのも「呪術師」たる彼らの仕事を増やすのもなぁ……、なんだか、申し訳ないよなあ……)
「――それならせめて、両親に挨拶と荷物の用意だけはさせてください」
「こちらが言うのもなんだが、いいのか?」
「ええ、ただ、そちらでお世話になるということについては、ちゃんとそれっぽい理由は一緒に考えてくださいね。」
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