the clumsy, the stranger and… 04

2人して千代子を窺う仕草があまりにシンクロしていて、真剣な話をしているのに千代子は笑いを堪えなければいけなかった。

ピーマンがこれでもかと入っている青椒肉絲を目の前に「ピーマンだけはどうにかなりませんかァ〜……?(※ならない)」と訴えかけてくる幼子みたいであまりにかわいかったのだ。ここはCM撮影現場かな?

(前提としてフォスやシンシャは人間と同じような食事を必要とはしない種族なのだけれど)

「師匠〜……」
「フォス、泣いてた子どもを探しに行きたいけどこの大きなひとも助けたいんだ。そこまではいい?」
「うん」
「それでね、このひと、さっきまで血が沢山出るくらい大怪我してた。今はわたしが手当したから大丈夫だけど、正直安静にしていたほうがいいのね。君たち宝石でいうところの、『身体が割れている』状態だから」

つまり、と千代子がひとつ提案した。

「このひとを最終的に、わたしたちの船のベッドに横たえたいんだよ。治りを早めるためにね」
「じゃあ、あの子はどうするの?」
「今から探しに行くよ?」
「え?」

どゆこと? とフォスが首を傾げる。
あの子のこと諦めるムードだったじゃん……?

「……三半がゴネた時点でこうなるのくらいわかってたさ」

どうせチヨコのことだ、何か解決策があるんだろ。シンシャがため息ひとつ。
その表情を見て、千代子はブイサイン。ありますとも、ございますとも!

「んふふ、アレを使います」
「アレ? ……どれだっけ?」
「察しが悪すぎるぞ三半……アレしかないだろ」
「ヒントはね、見ないけど見える・見えるけど見えないアレです」
「? ……あッ、もしかして僕たちに見えない『お隣さん』?」
「確かにアレなら炭男の件もまとめて解決できるな」

千代子本人は「アレは魔法じゃないよ」と言うけれど、フォスやシンシャに言わせれば「あんなの奇跡みたいな魔法」とも呼べるそれ。見えないし触れもしないのに、こちらに干渉できるもの。この世の法則さえ無視して傍らに寄り添うもの。

全く、千代子には謎がいっぱいだ。「お隣さん」もそうだし、何も無いところから火や水、風や雷を巻き起こせる突拍子のなさも、“緒の浜”で倒れていた前にどこで何をしていたのかも。

けれどそれがシンシャたちの不審感や猜疑心に繋がらないのは、彼女の為人がなせるものと言えよう。あまりに善良で、あまりにお人好しで、あまりにのんびりしている。特に最近などはのんびりしすぎているくらいじゃないだろうか、とシンシャは分析する。

(緊張感がないという意味ではないが)

宝石の誰よりも疑り深いシンシャにさえそんな風に思われているのだから、そのふにゃふにゃ具合は推して知るべし。

さて、そんなふにゃふにゃ代表の千代子がフォスとシンシャ引き連れ、証言や痕跡を頼りに島中を探して数時間。

「​───────泣いてた子、見つからないねえ」
「もうそろそろ真っ暗になっちゃうよ?」
「俺は光を集められるから夜になろうが問題ないが……」
「フォスは健康優良児だからねえ、すぐ眠くなっ……もうなってるね」
「ふにゃあぁ〜力が入らないぃ、眠いぃ〜……」
「仕方ない、2人とも今日は一旦船に戻ろうか。『炭の人』もいるわけだし」
「そうだな」
「で、でも!」

フォスは食い下がる。

宝石にとっての動力源を供給する内包物(インクルージョン)は光がなければまともに活動できない。そのうえフォスは、シンシャのように自力で光を集めるような術は持ち合わせていない。

すなわちフォスにとって夜間の活動は難しいことなのだ。だから今こうして彼が必死に「自分が探しに行く」と主張しているが、現実的とは言えない。今日訪れたばかりでミニオン島の地形に詳しいわけではないのも説得力に欠けた。

でも。

「でも、ひとりぼっちは寂しいよ……」
「…………」
「、……」

フォスのその一言に、その場を静けさが支配した。

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