the clumsy, the stranger and… 03

無事に急造カマクラ要塞へ帰還するとフォスたちが出迎えてくれた。玄関に駆けてくるわんちゃんみたいで可愛いね、と千代子は自ずと頬が緩む。

「わぁ、フォスもシンシャも頑張ったねえ」
「そうだよ、僕ら頑張ったんだから! 見てよこのコタツ!」
「わ、ほんとにコタツだあ! え、え、すごいねフォス、2人で作ったの?」
「へへん! 僕とシンシャが一緒ならこのくらい、ちょちょいのちょいさ!」
「実物を見せたことも無かったのにこのクオリティ……普通ならできないよ!」
「僕ら天才だからねっ」
「ほんとだねえ」

ねー、シンシャ! フォスが同意を求めた。が、シンシャは2人がかりで全力投球で褒められてフリーズしたために無言。未だ褒められることに慣れていないのですぐ思考を停止してしまう。

けれどさっきから千代子が抱えている超巨大なソレが視界に入ったことで意識が戻ってきて、ツッコまずにいられなくなった。

黒い塊に自分たちの身長くらいに長い足が生えてるんだが?

「ッ悠長に言ってる場合か?! そのチヨコが抱えている黒い塊はなんだ、炭か?!」
「炭にしてはもふもふしてるね」
「にんげんだよお」
「にんげん?!!!」
「こんなに大きいにんげんがいるんだ?!」
「チヨコより、先生より大きい……」

やっぱ初見だとこの大男さん黒い塊に見えるよね。
黒いファーコート着てるからかな?
しかし炭じゃなくて人間なんですよねこれが。
千代子は苦笑した。

「周辺探索してるときに拾ったんだけど、雪の上に転がってたから一旦そのコタツに入れてあげてもいい?」
「いいよ!」
「しっかり経緯は話してもらうからな」

カマクラに連れてくるまでの間に応急処置は済ませてあったので、千代子はとりあえずコタツに使っていた毛布の他に道具袋から大きな毛布を取り出した。それで大男をマキマキ巻いて、スシロールみたいにする。

しかしこのスシロール(※大男)、脚が毛布からめちゃくちゃはみ出ていた。脚が長すぎるのだ。これじゃつくり損なったかっぱ巻か、鉄火巻か、かんぴょう巻だ。

「じゃ、このひとの容態も気にしないといけないから手短に話すね」

千代子が偵察中に見たものや周囲の状況を共有する間、大男はスシロール状態にされた上から更にフォスやシンシャにマフラーを巻かれたりコタツに突っ込まれたりとホカホカに過ごしていた。意識はなかったが。

「​───────なるほど、そちらの状況は大体わかった」
「ここミニオン島っていうんだね、なんか僕みたいにかわいい名前」
「そうだねえ、フォスもシンシャもかわいいねえ」
「……三半とチヨコの馬鹿」
「ありゃ」
「またバカって言うー」
「そんな感想より言うべきことがあるだろ」
「何かあったの?」

千代子は頭上に疑問符を浮かべた。カマクラに仕掛けた細工で、2人をカマクラごと見つかりにくくしたはずなんだけど。

「あ、もしかしてあれかな」
「どれかな?」
「俺たちがコタツを作っている間に、カマクラの前をにんげんの子どもが通ったんだ」
「あの子か! なんか泣いてたね」
「三半が声をかけようとしたんだが、どういう訳か俺たちを見て酷く怯えた顔をして走り去ってしまったんだ」
「……!」
「俺たちより背は低かった。様子がおかしいから心配だったが、チヨコとの約束を破るわけにもいかないし、俺たちに怯えているのであれば無理に近づくのは良くないと判断した次第だ」

どちらか一方がカマクラの外にいるものに意図的に声をかけない限りは、呼び寄せない限りは、見つからないと踏んでいたが、やはりフォスは声をかけたか。予測しうる事態ではあったが、まさかドンパチ騒ぎがあった島で泣く独りぼっちの子どもがいたからだなんて。千代子は他人にそこまで興味を持たない質だったが、子どもには甘い傾向があるので心配になってきた。

「…………、」
「ねえ、師匠」
「んー?」
「師匠が戻ってきたわけだし、その子やっぱり心配だから……探してあげられないかな?」
「探すことはできるよ」
「だが三半、この炭男はどうするんだ?」
「あ、そっか、どうしよう……」

フォスもシンシャも、困ってしまった。

コメント