「は〜、やっと出られたね〜〜」
「おい」
「なぁに、テリーくん」
わたしはようやっとあの薄暗い地下牢から無事に脱出できた。本当は、地下牢に送り込まれた元凶たる王さまと王妃さまに「何やら悪いこと(=人身売買に加担)してるようだけど、ほんとにマジでお国傾くレベルでそれやばいと思うからどうにかした方がいいよ(意訳)」と告げたらそのままサッサとお暇するつもりだったが、そこでわたしは城門が開いていないことに気がついた。
城門が開いていないと、正面から突破できないのである。
どうやらこの城、びっくりなことに周囲にお堀がないタイプの構造をしているので、適当に高いところからピョーンと飛び降りたとしても外に出られる。つまり、そのまま城下町まで直接行くことができる、ということだ。防犯対策大丈夫か?
実は謁見の間から出て飛び降りてもよかったのだが、わたしだけ出られても地下牢仲間(※まったくもって笑いどころではない)の皆さんがお外に出られない。それはよくない。せっかく話を聞き入れてくれたうえで、しかもここまで着いてきてもらったのに、最後の最後で「外に出るためには自力で頑張ってくださーい」はちょっと無責任すぎるかな、と思った次第だ。わたしが置いていかれる側だったなら(舐めてんの? 手を出したなら最後までどうにかしてからにしろよな)ぐらいは思っていたに違いない。
そういうわけで、わたしは正面突破を目論んだのである。
今は城門抜けて城下町で旅の支度諸々を済ませ、街の外に出て少ししたところ……なんだけれども。
「アンタなんで付いてくるんだ」
テリーくんめちゃめちゃ仏頂面ね。
「なんでって……『できる範囲でテリーくんのこと“お助け”するからね』ってミレちゃんに約束したし、それになんかテリーくんの剣さばきが気になったし」
いやほんとそれなんですよ、特に後者。小さい背で剣を振り回そうとしてるの大変そうで……十中八九身体に合っていないんじゃなかろうか。もっと短いやつ使ったほうがいいと思うのよな……いっそ短剣とか。
(剣はね、重さがあるから……もうちょっと大きくなってからのほうがいいかなって……ほら、身体ができあがる前に筋肉をつけると体操選手によく見られる低身長になるかもだし。いやこれは圧倒的余談なんですけど、低身長だと将来テリーくん本人がコンプレックスになったりしないかしらと勝手に心配してるだけなんだけど……あれよ、身体が大きいほうが膂力がね……やだ、話が脱線しまくってる)
要はうまく使いこなせていない武器で戦っているのを見ると、わたしが戦闘のたびにハラハラしてしまうのである。大丈夫かな怪我しないかな、と気が気じゃないので気が散ってしまうのである。こんなふうに毎度の戦闘でハラハラするとなると、これからきっとミレちゃん探しの旅にも苦労が多い気がしてならないのだ。
「……」
「──……これからきみが旅をしてきみのお姉さんと再会するためにも、ちゃんと戦えたほうがいいでしょう? なら、それなりに動けるわたしのこと利用するなり手伝わせるなりすれば多少は近道だよ」
テリーくんからしたらまだまだ胡散臭い女かもしれないけど多分わたしお買い得よ、なんてったって旅の経験もあるし戦えるもんね〜、という意味を込めて笑顔で彼を見つめる。テリーくんは無言。
「、はぁ……」
十数秒して、テリーくんがため息をついた。こ、子どもらしくない……。
「それで、その対価は?」
「え? 対価?」
対価ときた。
あれか、無償で施しは受けないぞってこと? おいしい話に裏があるって? さすがだよテリーくん。
ちなみにわたしの話には特に裏はないよ。だって何も悪いことは企んでいないからね。どちらかというと、きみが無事にお姉さんと再会して幸せに暮らせるよう祈って、そのために助力しようとは画策しているけど。
「……」
「対価、対価かあ……」
そうだな、対価……。やばいわ、なんも考えてなかったわ。
「──うーん、ひとりぼっちの旅が嫌だから旅のお供にしてくれ、ってのは対価になる?」
あっ、(お前それ本気か?)って顔された。
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