死神を背負って君と歩く 01話

(数多の世界に飛ばされ続けることは承知のうえだけれども、さすがにこのパターンはやめてほしかったなあ……)

わたしはだれ? ここはどこ?

現実逃避したところで何も変わらないが、思わず自問してしまう。

わたし、千代子。現在地、とんでもなく治安悪そうな国。そこの、ヤバそうな王様に目をつけられてしまって展開がアッチコッチした結果牢獄にブチ込まれているところ。国名はなんと言っただろうか、ええと……ガンディーノだったか? たしかイタリアとかヨーロッパのほうの、実在する都市の名前と同じだったような。

それにしても、気を失っている間に人身売買に巻き込まれる案件とかどうしてそんなことになってしまったんですか? 国のトップが人身売買許してるとかとてつもなく悪い意味でトンデモ国家すぎませんか? わたしだったら許せない所業なんですが。

えぐいえぐいえぐい(鳴き声)。

いつぞやの、生体実験の被験体にと強制召喚されて毎日まいにち実験に使われていたときくらいの危機感と絶望と不安感を覚えているんですが。

まぁでも、不幸中の幸いというか、今回の”これ”で、見も知らぬ相手に身を穢されるような目に遭っていないことについては信じてすらいない神さまに感謝してもいいかもしれない。いややっぱ感謝はしないわ。即撤回するわ。神回避の大きな要因はここの王妃さまだと思うから。

あんなヤバい王様のところに嫁ぐことになった女のひとかあ……と警戒していたら、随分とまあ嫉妬に塗れた眼でこちらを睨んで、嫌悪感丸出しで「牢獄にでも入れておきなさい!」だもんな。しかも去り際、「またなの……?!」とかなんとか言ってたから、最近にも同じようなケースで牢獄行きになったひとがいるのかもしれない。

王妃さま、初対面でもわかってしまうほどヤバそうな王様のことを、好きなんか……。うーん、そうね、誰かを好きになるのは個人の自由だもんね。経緯とかきっかけとか原因はわからんし知らないし置いておくけど。なんかここらへんの事情、闇のかほりがするから置いておくけど。

それはそれとして、そろそろ飛ばされた直後の壮絶すぎる体調不良と激ヤバ不運ロールのコンボで、別世界への旅立ちのそれも幕開け早々から堂々と飾り付けをするのをやめてほしい。切実に。

なお今も絶賛(?)体調不良中の身であるため、意識がやや朦朧としている。一刻も早く快復することを祈るばかりだ。

(──そういえば、あの金髪の顔立ち整った女の子は無事にここを抜け出せただろうか?)

ここへ来てから、わたしの生活リズムは乱れに乱れ、ナマケモノのように長時間睡眠をとっては短時間しか動けないような有り様になっていた。そんなところを人目を忍んでは気にかけてくれた女の子。金髪碧眼の、涼やかな顔立ちのあの子はたしか、ミレ……? ミレなんとかちゃん。名前をど忘れした。どうしてここで悪癖を発動してしまったのか。ヴヴン、と唸ってしまう。はじめの2、3文字しか覚えてないや……ごめんねえ……(※実際の会話では「ミレちゃん」と呼んでいるから支障はないのだけれど)。

そのミレなんとかちゃんとは、(今よりもっと体調不良がひどくて意識が朦朧としていたけど)意識があるとき何度か話す機会があった。なんでも彼女には大事な大事な弟がいるらしい。けれど、こうして彼女は人身売買に巻き込まれてしまい、離れ離れになってしまったというのだ。すでにここで涙腺がやられそうになってしまうくらいなのだが、なんとその弟くん、彼女が連れ去られるとき、助けるために無謀にもギンドロ組とかいうヤクザに歯向かったという。しかし年端もいかない少年が、武術のぶの字もまともに知らないであろう少年が、ヤクザに敵うはずもない。さもありなん……。

「弟の名前はね、──テリーっていうの」

きっとね、テリーは、どんなに危ない目に遭うとわかっていても、わたしを取り戻しに来ようと頑張ってしまうと思うの。わたしがテリーにそんな目に遭ってほしくなくても、きっと……。

わたしは、朦朧としている中、泥の中咲く花のようなひとりの少女をみた。

心配そうに、絶望のなか紡がれた声音が、牢獄で小さく響いたように聞こえた。自分だってひどい目に合わされていて、次の瞬間どうなるかもわからない不安のさなかにあるだろうに、それでもたったひとりの弟のことを案じている。

それがあまりにも眩しくて、有り難いもののように思えてならなかった。これは、この輝きは、そう簡単に失われていいものではないと思った。こちとら若者の頑張る姿や健気なさまに弱いBBAなのである。とんだ特攻なんですよ本当に。

話を戻すが、その当時、牢獄には他の奴隷の身分におとされた大人たちもそれなりにいて、秘密裏にミレなんとかちゃんを逃がしてあげようとする計画があった。わたしもあまり身体を動かせなかったが、その計画には乗っていた。それもあってわたしは、彼女が牢獄から逃げるその当日に「気休めにしかならないと思うんだけど、」と前置きをして、「もしもそのテリーくんとやらを見かけたら、ミレちゃんと再会できるよう、可能な範囲で助力するね」と告げた。

彼女はわたしの片手を両手で握って「……ありがとう」とか細く返事をして、走り去っていった。

彼女のその後を、わたしは知らない。でも、きっとどうにかうまいこと逃げおおせて、どこかで生きているのではないかと思う。少なくとも”ここ” で再会していないし、関連するような大きな騒ぎも起こっていないので。

(──とか呑気に思っていたら、牢獄にショタがブチ込まれたが????)

しかもご丁寧にボコボコにされた状態なんだが?

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