あなたに会うあの日のこと 年下ともだち編

 

ポポー、クルッポポー。
ナーウ、ニャウー。

新聞部の取材帰り、いつになく近所の公園が騒がしかった。

「……?」

ハトが鳴くのは日常風景の範囲だとして、猫がこんなにも気遣わしげに大合唱しているのは珍事じゃないだろうか。

溢れる好奇心を抑えられなかったわたしが足を踏み入れると、ベンチでしょぼくれる一人の女性がいた。推定年齢は20歳くらいだろうか、ピシッと決まったスーツに身を包んでいる。

「ドウシヨ……ドウシヨ……」
「ポポー」
「ンナーゥ」

なんかすごく悲しそうに鳴いてる。泣いてるではなく、“鳴いてる”。誤用とかではなく本当に鳴き声って感じなのだ。

お姉さんはしょぼくれながら膝と肩と頭の上に山ほど猫が乗ってこれでもかと言うほど猫まみれ。満遍なく猫を撫で回す手が止まるところを知らないし、その周りをハトが輪唱しながら円を描くようにぐるぐる闊歩している。

想定よりよっぽど珍事だった。
なにかの儀式だと言われても通じそう。
彼女の身に一体何が?
何をそんなに嘆くことがあるのだろう?

「……あの、」

わたしの好奇心はとどまることを知らず、畢竟「どうしたんですか?」と単刀直入に声をかけるに至ったのである。

 

***

 

「本当にありがとう! 帰宅どころか飢え死にして無縁仏になるところだったのを助けてくれて!」

春奈ちゃんはわたしの、命の恩人さんだねえ。
お姉さん​───────千代子さんは大仰な言い回しで(先ほどまでの様子とは打って変わって)花がほころぶように笑った。「自慢じゃないけど極度の方向音痴でね、」とはにかんでいる。何はともあれしょぼくれモードから脱してくれてよかった。なんだかハトと猫も心做しか嬉しそうに見えるし。

「この系列コンビニのスイーツを何個か買ったからどうぞ、先日食べて美味しかったからおすすめなの」
「えっそんな、いいですよ申し訳ないし」
「いいからいいから、命を助けてもらったお礼には全然足りないんだからこれくらいもらっておいて、ね、お願い、お姉さんを助けると思って」
「えーっ、じゃあありがたく……!」

わ、これ気になってたちょっとお高めのコンビニスイーツだ……!
ああ、こっちも美味しそう……!
わたしはレジ袋を覗き込んでときめいてしまった。美味しいお菓子は生活を潤わせるので。さすが嗜好品なだけある。

……脱線したので話を戻そう。
先ほど迷子の千代子さんから得られた回答(※超意訳)はこちら。

(携帯の)電池もねえ 充電器もねえ
(公衆)電話も全く見当たらねえ
(土地)勘もねえ 地図もねえ
コンビニ探してぐーるぐる
(するのは家に帰れなくなる危険があるのでやめた)

なるほどつまり、出先でたまたま携帯の充電がなくなったうえにたまたま充電できるものも持っておらず連絡手段を失い平たく言えば迷子だったというわけ。加えてそろそろお腹も空いていたけれど(自他ともに認める方向音痴が発動してはこれ以上むやみに移動するわけにもいかず)どうしていいか分からなくなって目に入った公園に避難して途方に暮れていた、と。

なんて不運に見舞われていたんだ、千代子さん!?
声をかけてよかった。わたしは素直にそう思った。

そしてあの猫たちは見知らぬ猫(!)らしく、おそらくこの辺の地域猫なんだろうなとのことだ(鳩も同様)。
わたしがお姉さんの問題を解決したのをどうやらわかったようで、彼ら(彼女ら?)は挨拶がわりにかひと鳴きしていつの間にかクールに姿を消していた。できる生き物たちすぎる……。

千代子さんはというと、コンビニ横に設置された公衆電話を使って無事に迎えの車を呼ぶことに成功して「春奈ちゃん本当にありがとねえ、またねえ!」と元気に帰っていった。
めでたしめでたし。

***

そしてこれは余談なんだけど、これもなにかの縁ということで(わたしから持ちかけて)千代子さんとメル友になった。あの日からほぼ毎日のように連絡を取りあっている。
だってあんな出会い方、インパクト強すぎるもの!
それに、千代子さんって歳上なのにわたしより頼りないところもあってかわいくて、目が離せないの。

いつか、お兄ちゃんにも紹介してみたいな。

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